「お前の本当の願い、それはタカネナツとの結婚だ」

 カイトに言われて込み上げてくる僕の本当の願い。
 たった今、カイトに言われるまでずっと心の中に閉じ込めてきた願い。
 小さい頃から一緒だった幼馴染に抱いてきた、自分に言い訳をすれば心の中に収まる程小さくて、それでいてとても大きな想い。

「カイト...どうして...」

 僕は言葉が出てこなかった。
 言葉は出てこなかったが、どうしても、やるせない気持ちになった僕は代わりに僕は目に涙を浮かべていた。

「おいおい、なんで泣くんだよ」

 急に泣き出した僕に戸惑うカイト。
 僕は手で涙をぬぐい、カイトの方に向き直る。
 でも、僕は興奮したせいか、しゃっくりが止まらず、カイトに言いたいことが言葉にならない。
 見ていられなくなったのか、カイトがさらに口を開く。

「ヒナタ、もう一度言う。俺にお前の願いを叶えさせてくれ。力はほとんど失ったが、俺は1人のニンゲンとして、お前を1人の友人として、お前が将来タカネナツと結婚できるように全力でサポートする!」

 胸に手を平を当てて声を上げるカイト。
 カイトは僕の心の中でずっと沈んでいた本当の願いを呼び覚ましてくれた。

 今の僕は奈津に告白する勇気なんて微塵も欲しいと思わない。

 僕の願いは...奈津と結婚することだ。

「カイト...あり、がとう...」

 まだ僕のしゃっくりは止まってはいなかったが、カイトに言いたいことは伝えられたと思う。

「よせよ。礼を言いたいのはこっちだぜ」

 鼻の下を人差し指で掻くカイト。
 どうもカイトは、照れている時に体の何処かを掻く癖があるようだった。
 そして、僕はしゃっくりを止めるように目をこすり、再び涙を拭いた。
 そして、カイトの目を見ながらこう言った。
 
「それじゃ神様、僕の願いを叶えて下さい...」

 この神様へのお願いは、相当無茶だということは分かっている。
 それでも僕は、奈津と一緒に過ごしていきたいんだ。

「分かった。全力でサポートさせてもらう」

 ここで僕は初めてカイトのことを神様と呼んだ。
 そして、初めて僕は神様に本当のお願いをした。

        ☆彡

「それじゃカイト、学校生活では僕の言ったこと、絶対に守ってくれよ?」

 教室に戻るため、屋上からの階段を下りながら僕は、カイトに注意深くそう言った。

「ああ、分かってる。能力は使わない」

「それと、自分が神様だって言わないようにしてくれよ」

「そこが納得できないところだが...まぁヒナタの頼みなら...」

 腕を組み、首をかしげるカイトに、もうさっきまでの圧力というか、恐怖は無かった。
 
「カイト、君の設定は、僕の家にホームステイしてる帰国子女だ」

「きこくしじょ?」

「親の都合とかで外国に行ってた人が、日本に帰ってくることだよ」

「なるほど。俺がその、きこくしじょなんだな、分かった」

 ウンウンと頷くカイト。
 頼むからミスだけはしないでくれよ...?

        ☆彡

 教室に入ると、僕とカイトはすぐにクラスの連中に囲まれた。
 
「お前たち、何してたんだよ」

「急にカイト君連れてっちゃって」

「ああ...悪いな。カイトに話があって」

 僕はみんなに平謝りをするをしながら、自分の席に戻る。
 ふぅっと一息ついて、カイトの方を見ると、

「ねぇねぇ、さっきの特技の続きやってよ」

「そうだな、神野、やってくれよ」

 やはりさっき見せられなかった特技のことでみんなから言い寄られていた。

「分かったよ。じゃあ、続きな」

 カイトは、筆箱からペンを取り出し(さっきのシャーペンは、まだ僕のポケットの中に残っている)さっきと同じように、このペンを見ていろと指示を出す。
 そして、カイトがやったのは、能力ではなく、ただのペン回しだった。
 こうなることの予想ができていた僕は、カイトにペン回しを教えておいたのだ。
 時間がなかったから、超基本的な技しか教えられなかったものの、これでこの場は回避することができたと思う。

「「「おおお!」」」

 上がる大歓声。
 たかが簡単なペン回しをしただけのイケメン君はというと、大歓声の中、笑っていた。
 まだ僕にも見せたことがなかったカイトの笑顔。
 カイトは学校生活を明らかに楽しんでいた。