まだ全てを信じたわけじゃない。
 でも、カイトを信じてみたいと思った。
 カイトが神様だということを。

「カイト、しばらくうちに居候する?」

「いいのか?」

 うつむき加減だったカイトが、少しだけ顔を上げる。

「いいよ。だって、この家には俺1人だから、寂しくて」

「ヒナタの家族は?」

「両親は2人とも仕事で海外へ行ってるし、兄貴も姉貴も東京で仕事してるからいないんだよ」

 そう、僕は今、1人でこの家に住んでいる。
 人が増えた方が賑やかで楽しいんじゃないかと思ったのだ。

「それじゃ...しばらく世話になる...」

「うん、よろしく」

 俺はすっかり冷めてしまったお茶をぐいっと飲み干した。
 それを真似してカイトも飲んでいたが、お茶を飲んだのは初めてだったらしく、お茶の苦味に咳き込んでいた。
 この家に僕の他に誰かいるなんて、何年ぶりなのだろうか。

「あ、あとヒナタには見せた方がいいな」

「何を?」

 僕がそう言ってカイトの方を見ると、カイトは手を触れずに自分のティーカップを浮かしていた。

「......?」

「言ったろ?父上にほとんどの能力を奪われたって。多少は残ってるんだ。能力が」

 ...前言撤回。
 僕はカイトが神様であるということを、全面的に信じます。

        ☆彡

 その後もカイトには、色々なことを教えた。
 テレビ、スマートフォン、ゲーム、その他諸々。
 特にゲームとテレビには、どハマりを示し、プレステの「道端戦闘2!」という格闘ゲームでは、あっという間に僕よりも強くなった。
 このゲーム、結構自信あったんだけどな...
 テレビは、ずっと家にあった「シャーロック・ホームズ」のDVDばかり観ていた。

 そして4月2日、授業が始まる日。
 この日は、僕が学校に行くまでの間の留守番を頼んでおいた。
 少し心配なところもあったが、家に帰ると、ちゃんと家にいた。
 聞くと、1日中「道端戦闘2」と、「シャーロックホームズ」に夢中だったらしい。
 ちゃんと家事とかも教えないとダメだなこりゃ...

         ☆彡

 んで、今に至る。

「それじゃ、神野君の席は...あそこの席でお願いね」

「あ、はい」

 入江田高校の制服に身を包んだカイトが向かった席は、あろうことか奈津の隣の席だった。
 おいおい...マジかよ...

        ☆彡

 昼休み、カイトの周りには人だかりができていた。
 僕はその人だかりを押しのけて、カイトに近づき、

「ねぇカイト君、ちょっといい?」

 まるで今日初めて会うかのような口ぶりで、初対面を装う僕。
 よし、これで上手いことカイトを連れ出して...

「なんでそんな口調なんだ?ヒナタ」

 をぃいぃいいぃぃいい!!
 何の為に僕がそんな口調になってると思ってる!?
 察しろよ!
 心の中で叫びながら、その叫びを目で訴える。
 神様なんだから読心術とか使えないのかよ...

「あれ?日向と知り合いなのか?」

 クラスの男子の1人が、カイトに問いかける。

「知り合いも何も、俺とヒナタは、一緒に住んでるんだけど?」

おいをいおいをいおいをいおいをい!!

「「「「「はぁ!!??」」」」」

 カイトの周りに集っていた生徒全員が、凍りつく。

「いやぁ、その...そうだ、こいつ、アメリカからの帰国子女でさ、親がまだ仕事が忙しいから、たまたま俺の家で預かることになったんだよ」

「なんだ、そう言うことか」

「びっくりした~」

「ついに日向もそっちの気に目覚めたかと思ったぜ」

 ふぅ~、我ながらナイスなリカバリーだった。

「で、親御さんの仕事は何やってるの?」

「えっと...探偵d(^_^ )」

 をぃいぃいいぃぃいい!!
 キメ顔で即答すんなぁぁあぁあああ!!
 こいつ、シャーロック・ホームズを観ただけだから、探偵以外の職業知らないのか!?

「へ~、すっげぇ~」

「探偵の息子さんなんて、頭いいんだろうな~」

 マズい...
 こいつ、傘の開き方も知らなかった無知ですから!
 一応神様だけど、正直下界に降りたらただの馬鹿ですから!

「ねぇ、何か特技ないの?」

「特技?そうだな...」

 カイトはおもむろに鞄から筆箱(兄貴が使っていた古い物)を取り出し、その中から、シャーペンを取り出した。
 
 なにか...盛大に嫌な予感がするぞ...?

「この棒を見てろよ?」

 みんなの視線を棒(シャーペン)に向けさせる。
 やっぱり!?
 そいつはいくら何でもダメだ!

「ち...ちょっと来い!」

 僕はおもむろにカイトの手を掴み、そのまま屋上へと連れて行った。