家を出てから10分程で神社に着いた。
あの人は...いた!
相変わらずあの格好で神社の階段に座って雨宿りをしている。
しかし、この雨だ。
正直、この古い神社ではとてもじゃないが防ぎようがない。
上半身裸で雨に打たれたら、いくら神様でも、風邪を引いてしまうんじゃないか?
そう思いながら僕は、自称神様に近づいた。
「あの、神様?」
「君、戻ってきたのか...?」
不思議そうな顔で僕を見る自称神様。
「これ、使って下さい」
そう言って、僕は持ってきたもう片方の傘を渡した。
「...良いのか?」
「はい。あと、行くところがないならうちに来ませんか?」
大雨の中、こんなところでずっと座ってるなんて、この人、きっと行くところがないのだろう。
もしかしたらただのホームレスなのかもしれないけど、それにしては若すぎる気がした。
年が近そうだったということもあり、僕はこの人を放っておけなかった。
「こんなところにいたら、神様でも風邪引いちゃうんじゃないですか?」
僕が嫌味っぽく言うと、自称神様は、
「ああ、そ、それじゃ、少しだけお邪魔しよかな...」
と言い、立ち上がった。
立ち上がったが、なぜか傘をさそうとはしなかった。
「早く、傘さして下さい」
僕がそう言うと、
「これが傘なのか?お前の持ってるものとは、随分と型が違うようだが...?」
へ?
「これはどうやって使うのだ?」
まさかこの人...コウモリ傘を知らない?
「これはこうやって広げて使うんですよ」
僕は自称神様の傘のボタンを押し、傘を広げた。
「凄い...ニンゲンは面白いことを考えるな」
広げたコウモリ傘をまじまじと見つめる自称神様。
この人、本当に神様かもしれない。
これが僕にそう思わせた瞬間だった。
☆彡
「どうぞ、上がって下さい」
「悪いな」
僕は、ずぶ濡れになった自称神様をリビングに連れて行き、暖かいお茶を出した。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね」
一応家まで上がらせたんだ。
自己紹介くらいするのが筋というものだろう。
「僕は清水 日向。高校2年の16歳だよ。よろしくね」
「俺は...界人(カイト)。信じてもらえるかどうか分からないけど、一応、神だ」
カイトと名乗ったこの人は、至って真剣な眼差しを僕に向けていた。
とても嘘をついたり、ふざけたりしてる目じゃない。
「それじゃ...カイト...で、良いんだよね?」
「構わない」
「カイトは神様なんだろ?なんでここにいるの?神様ってこう...なんていうか天界?みたいなところにいるんじゃないのか?」
「?」
カイトはきょとんとした表情を浮かべた。
まずったか?僕まずったか?彼がもし本当に神様だとして、神様にとって僕らの常識は結構知ったかぶりになるのか?
「驚いたな」
カイトは、僕の知ったかぶり(?)を怒るでもなく、笑うでもなかった。
「ニンゲンは神のことなんて全くもって無知だと思ってたんだが...よく俺たち神が住んでいるところが天界だと知ってたな」
「いや、その...僕は適当なことを言っただけで...」
「そうだよ、俺は天界にいたんだ」
僕の言葉の訂正とは裏腹に、カイトは話を進めた。
「でも俺、追放されちまったんだわ」
「追放?」
「ちょっとした神の掟に背いちまってな...神としての能力をほとんど父上に奪われちまった状態で下界に落とされたんだ」
なるほど。
だからあの時、なんの前触れもなくカイトは僕の前(正確には後ろ)に現れたのか。
「それで、カイトの背いた掟って?」
「ああ、たった1人...たった1人のニンゲンの願いを叶えちまってさ...」
「それはいけないことなのか?」
願いを叶えるなんて、僕たちにとっちゃバンザイじゃないか。
実際、僕も神様に願い事をしてたわけだし。
「いけないんだ。そいつをやらかした場合、世界が崩れかねないんだ。それは神が用意した1人の人間の運命を曲げる行為だからな」
「なるぼどね...」
なんとなく分かった気がする。
つまり、よく漫画とかアニメとかで言われる、『運命は変えられないんだー!』的な感じだな。
1人の人間が願いを叶えるということは、その人の運命を狂わす。
周りの人間にも被害が出る。
そういうことだろう。
「どんな願いを叶えたんだ?」
興味本位で質問する僕。
「それは...言えない」
カイトはうつむきながらそう言った。
