ー2日前 4月1日ー
 2年生最初の行事である始業式を終えた僕は、いつもの帰り道を歩いて帰っていた。
 いつもは奈津と一緒に帰るのだが、生徒会の仕事が忙しいとかで今日は1人だ。
 帰り道の途中、古ぼけた神社があるのだが僕は年度始めにここで、とあるお願いをするようにしている。

 パンパン!

 手に持っていたカバンを置いて、二回手を叩き、そして目を閉じる。

「どうか、今年こそ僕が奈津に告白する勇気を下さい...」

 もともと冴えない僕は、幼馴染という特権を持ちながら、奈津に告白する勇気がなかった。
 だから毎年、こうしてお願いをして、神様に力をくれるように頼み込んでいる。
 まぁ、自分が努力しないとダメなんだけどな...

「ふぅ...」

 一息ついて、俺は目を開ける。
 
「さて、帰るか」

 カバンを拾い上げ、神社の鳥居をくぐろうとしたその時、

 ドタン!!

 何かが落ちてくるような音が後ろから聞こえた。

「って~な~」

 声も聞こえる。

 振り返ると、そこには尻餅をついた僕と同い年くらいの白髪の男がいた。
 顔はよく見えないが、服装は白い袴を履いていて、上半身は裸。
 筋肉はムキムキというわけではないが、適度に細すぎない体をしていた。
 なんにせよ、この格好で街中を歩けば、変態扱いされるだろうという格好である。

「あ...あの...大丈夫ですか...?」

 不安しかなかったが、とりあえず心配をする僕。
 ...噛み付いたりとかしないよな...?

「大丈夫に見えるか?」

「す...すいません...」

 その目つきのキツさに、つい引いてしまったが、顔を見ると、ものすごいイケメンだった。
 ...ホストクラブとかにいそう...

「ジロジロ見るんじゃねぇよ」

「すいません...あなた...何者ですか?」

 僕は一番知りたいことを聞いた。
 急に現れた半裸のイケメン。
 本当何者だよ...

「俺?神だけど」

「はい?(°_°)」

「いや、だから神だっての」

「(°_°)...」

 やばい...
 気が動転して声が出ない...というか頭が回らない。

「あの...ドユコトデス?」

「だーかーらー!神だっ!か・み・さ・ま!お前たち人間が信仰してやまない神様だよ!」

 これはリアル中二病なのかな...?
 
「あの...冗談抜きでお願いします」

「お前、信じてないな」

「いやいや、100人が今の僕と同じ局面に遭遇したら100人全員が信じないと思いますよ!?」

 そうだ。
 神様なんているはずがない。
 あれは人間の創り出した創造物で、いるはずがないんだ。
 さっきまでその創造物に何をお願いしてたんだよ僕は...
 
「まぁ、そう思われてもしょうがないか...」

 神様(自称)は、がっくりうなだれ、頭をぽりぽり掻きながらながらそう言うと、立ち上がり、

「悪い、変なこと言ったな。忘れてくれ。お前も早く帰れよ。もうすぐ雨が降ってくるからさ」

「あ...はい」

 この自称神様の言う通り、上も見ると雲行きが怪しくなってきた。
 とても暗い感じの雲だ。
 きっと、大雨になるだろう。
 
 傘持ってくればよかったな...

「それじゃ、お言葉に甘えて、失礼します」

 雨に当たりたくないので、早く帰りたかったことと、この怪しい男から早く離れたかったことが重なり、僕は足早に神社を出た。
 この自称神様の男を置いて。

        ☆彡

 僕が家に着くのとほぼ同時に雨は降り始めた。
 雨脚は一気に強くなり、あっという間に土砂降りとなった。

「...あの人、大丈夫かな」

 リビングで制服を脱ぎながら僕は冷静になって考える。
 僕が神社に来た時は誰もいなかった。
 それなのに、神社を出る時に人が現れた。
 まるで降ってきたかのように。

 そんなことってあるのかな...

 もしも本当にあの人が神様だったらどうしよう...
 なんかすげーバチあたりなことした気になってきた...

 そんなことを考えながら僕は、いつの間にかリビングから玄関まで戻ってきてしまっていた。
 雨はどんどん強くなっている。

「ははは...変だな、僕。変質者を今から迎えに行こうとしてるよ...神様なんていないって思ってたのに...」

 独り言を呟きながら、傘立てに置いてある傘を2本掴み、1本をさして僕は神社へ走って向かった。