「…………」
この人がここにいなければ泣いていた。
辛うじて耐えたのは、目の前に見ず知らずの男子がいるから。うつ向いて、ぐっと涙をこらえる。
先輩は向かいのイスに腰を落として、そんな私をそっと見つめた。
「痛いん?下向いたら血ぃ止まらんよ?」
「…………大丈夫」
痛いけど、痛いのは鼻じゃなくて胸だ。心だ。
竜憧くんがそばにいてもいなくても、ほんのちょっと思い出しただけで、胸は悲鳴をあげるくらい苦しくなる。
「なんか泣きそうやなぁ。そんな顔されたら男は堪らんわ」
「………………っ?」
ふと気づけば、名も知らない先輩の顔が目の前にある…………
…………近い近い近いメチャメチャ近い‼
しかも、たぐいまれな美形だからか余計に焦る。慌ててぱっと離れた。
なんか(竜憧くんとは逆に)壁のない人だ。
でもこれはこれで調子が狂う。
「あの、私もう大丈夫ですから、先輩クラスに戻…」
「あかん、自分可愛いィな。なんか心臓ドキドキしてきた。オレ出血してる女に弱いもん」
「……………………(はい?)」

