教室への帰り道。
私もイスくらい持ってあげようかと思ったけど、竜憧くんは机もイスも一人で運んだ。
廊下は長いけど、あまりに軽々持つもんだから、"疲れたら手伝うよ?"って言葉を言う間もなく、教室に戻ってきちゃった。
「千歳さん。どうもありがとう」
「(別に……)」
しかも、何もしていないのにお礼まで言われた。…………なんか調子狂う。
そしてこの流れで結局、竜憧くんの席は私の隣に決まった。
転校生の定番、一番後ろの角の席。きのうまで空いていた場所に彼がいる。いなかった人が横にいるってだけで教室が違う場所みたい。
やがて、授業が始まる時間がきて────
彼は昼寝をするわけでも、スマホをいじるわけでもなく、教科書とノートをカバンから取り出した。なんかまたびっくり。
そして、目元を覆っていた長い前髪をゴムで束ねた。

