『……そばにいて。』
飴玉みたいに綺麗な瞳。
そこに映っていたのは俺で。
小さな体に抱きしめられた。
冷たい互いの体も、触れたところから熱が生まれ全身に伝わる。
雨の匂いに混じって君の香りが鼻をくすぐった。
抱きしめる事ができなかったのは、自信がなかったからだ。
いったいなんの自信だろう。
少し前の出来事を何度も思い出しながら歩く。
もし、このまま帰ってしまったら……?
こうして話しながら歩く事なんてもうないかもしれない。
それは、すっげぇ嫌。
…そばにいたい。
「俺、今日親いねぇよ。」
俺だって、帰したくない。
立ち止まれば、同じ様に立ち止まって俺を見つめる。
恥ずかしそうに目線を逸らし、何も言わず頷いた。
「シャワー浴びる?」
俺ん家に着くと全身びしょ濡れの2人。
そのまま上がるのは流石に嫌なので、脱衣所へ直行。
「いや、しおん先いいよ。」
「ばぁか、風邪引いたらどーすんだよ。」
「しおんだって。」
「俺はいーの、強いから。」
「でも……。」
こう一度言い出したらなゆは止まらなくなる。
素直に入ればいいのに。
「じゃあ、一緒に入るか?」
「先入らせていただきます。」
冗談で言ったつもりだがそんな即答されると結構傷つく。
「着替え、後で置いとく。」
「あ、ありがとう。」
靴下だけ脱ぎ洗濯機に入れ、脱衣所を出た。
なゆの服を脱ぐ音が脱衣所から聞こえ、つい変な事を考えてしまう。
…っくそ。
赤くなんな、自分。
『俺、今日親いねぇよ。』
そうは言ったものの、実は一人暮らしをしているから今日っていうより、いつも一人だ。
だから、なゆが帰るまで俺たちは一つ屋根の下、二人っきりと言うわけで…。
考えると戻りかけてた頬が、また赤くなった。
女子を家に入れるとか初めて…だよな。
なんか出した方がいいのかな、お茶とか。
女子ってだけでも緊張するのに、況してや好きな人なんだから余計に緊張する。
着替え…Tシャツとズボンでいっか。
一番小さいのを取り出し、脱衣所へ向かう。
シャワーの音はしていたが、一応ノックをし着替えを置いて出た。
そのままリビングで出るのを待っていたい所だが、床が濡れてしまうので廊下で待っていた。
ボーっとしてるとドアが開く音がして変に体が強張る。
「服、ありがと。」
出たらすぐに俺がいるもんだから、なゆは驚き、その後礼を言った。
「うん。サイズ大丈夫だった?」
「ちょっと大きいけど、大丈夫。えっと、ドライヤー借りていい?」
「あぁ、リビングのテレビの横の棚の一番上に入ってるから使っていいよ。」
じゃあ、と背を向け脱衣所に入る。
……ヤバい。
想像以上だ。
一番小さいのを選んだけど、男女ではやっぱり体の差があるようで、短いワンピースみたいになったTシャツと、ダボダボのズボンから覗く細くて綺麗な白い足。
胸元も大きく開いていて、髪から滴り落ちる雫がそれを濡らしていた。
いつまでなゆがここに居るのか分からないが、たぶん、我慢する事は出来ないだろう。
服を脱いで風呂に入ると直ぐ、頭からシャワーを浴びる。
最初は少し温くて、段々それは熱くなる。
らしくない妄想をし、何だか変な気分だ。
いつもより長くシャワーを浴びていた。
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