「江口くん、今から暇?」
いつの間にか江口くんとやらは囲まれてしまった。
え、なにこの人、何者?
「ごめん、今日はちょっと…」
「!?」
ーー柿原奈津は只今驚きを隠せません。
さっきまで私が見た彼は冷たい目でちょっと怖い印象だったのに、今は爽やかな笑顔を振りまいている。
…え?
周りにいた女子はきゃーきゃー騒ぎだすし、江口くんはスマイル全開だし…
見てはいけないものを見てしまったような気分。
私が呆然としているといつの間にか女子の集団は帰ったらしく、教室にいるのは私と江口くんだけ。
「お前の笑顔は下手くそだな」
その言葉を聞いて、さっき言ってた下手くその意味がわかった。
江口くんは席を立って教室を出ようとする。
「江口くん!」
なんで引き止めたのかはわからない。
無意識に彼の名を呼んでいた。
彼は立ち止まって私を見た。
視線が交わった瞬間
「ーーっ!」
あの日、助けてくれた彼とーーーー
ーーーー重なった。

