世界が漆黒に染まる5年前──────










シャラン✡。:*


「ん・・・っ」


携帯の目覚ましと共に、ゆっくりと身体を起こす少年。
肌の白さに馴染む空色のバスローブで身を包み、女の子の様な体格をしている。
少年は覚束無い足取りで洗面所へと向かう。
鏡付き戸棚を開き、取っ手付きウォールラックを手前に引き出す。そこにはキラキラ光る、宝石のような香水の瓶が沢山並んでいた。「love♡poison apple」「shooting✡。:*star」などの高級な物や、そこらで買える物もあった。
彼が手にしたのは、お気に入りの「puppet life」という見たこともない両親からの贈り物の香水だった。それを振りかけると、薔薇のような惹かれる不思議な香りを彼は漂わせていた。
そのまま長い階段を降り、1階へと進む。ロビーには、沢山のメイドが礼儀正しく待ちかねていた。
そこへ、1人のメイドが前に出る。他のメイドとは服の色が違い、少年を子供のように見つめた。


「おはようございます、楓様。
今日の朝食はトーストしたパンにバターを塗り、目玉焼きをベーコンと焼いて添えました。お飲物に、楓様お気に入りのブラッティーローズを淹れました」


「楓様」と呼ばれた少年は、赤いテーブルクロスの引かれたローテーブルの端っこに座る。運ばれてきたブラッティーローズという、これまた誰かの贈り物のティーパックで、味は天下一品と呼ばれるものであった。
彼は香水や、この紅茶からも分かるように、結構な薔薇好き。大きな庭には薔薇園が二つあり、自分で石鹸なども作る。世界の三分の一の薔薇がここにある。彼の手厚い加護を受け、1度も根を枯らしたことのない薔薇たちである。
大窓から見える庭の薔薇園を眺めながら、朝食のトーストを頬張る。こんなお坊ちゃまなのに、以外に庶民性出るところがある。そのためか、周辺に住んでいる人々も彼を慕っている。