―――ぱしん。


「お前、最低だな」


 突然頬に訪れた鋭い熱と共に浴びせられた罵声。

 覚悟していたとはいえ、やはり気持ちの良いものではない。


「さ、最低と言われましても……」


 それなのに自分でも驚く程の焦りを滲ませた声が出た。

 知っていた――というより、予感はあったのだ。きっと今日、“そういう話”をされるのだと。哀しいかな、伊達に経験を重ねている訳ではない。

 わたしのすっ呆けた声に苛立ちを募らせたのだろう。相手は更に目くじらを立てて詰め寄ってきた。


「ああ!?テメー、何自分は何も知りませんな顔してンだよ?」

「だ、って潔白だし……」


 ぐん、と一気に距離を詰めてくるものだから咄嗟に後退さってしまいつつ、何とか答える。

 謝るつもりは無かった。

 一度でもそれを口にしてしまえば、わたしが悪い事になってしまうからだ。認めたという事になってしまう。それだけは避けたかった。