彼女はバニラの香りがする。
いかにも、「私、お菓子作り趣味です」、なんて強調するようなどぎついバニラではなく、ふわり、と匂う香り。纏うとか、着けるとかの香りとも違う。
たぶん、だけど、彼女の存在自体がバニラで、バニラによってしか彼女を表せない、儚い香り。
朝、ふわりと香れば、一日中大体、通り掛かれば、ふわり、香っている。
(そんなに長く香りって続くもん?)
いや、違う。俺の知っているバニラは、どんなに強くとも、昼には消えている。だから違う。絶対、違う、のに。
「あれ、おはよ」
あっさり、俺に挨拶する彼女と、どぎまぎして何も言えない俺。
「は、よー」
「うん、おはよ?」