居ても立っても居られなくなって、朝から紗英を廊下の端っこに連れ出した。


「紗英、この前は突然ごめんね。」


怒ってるようにも、少し切なそうにも見える顔で紗英は「うん」って首を振った。


「私…佐倉くんが好き。最低かもしれない。でも、自分ではどうしようもできないくらい、好きになっちゃって、あきらめようと思ったのに、全然出来なくて…」


自分の気持ちを上手く言葉にできなくて、次の言葉を探していると、


「由梨の気持ち分かるよ。」


予想もしてなかった返事をしてくれた。


「…へっ?」


「紗英こそこの前はごめんね。突然だったから、びっくりした。焦ったよ。自分から協力してって言っといて、二人が仲良く話してるところ見てると辛くて…でも、由梨なら大丈夫って信じてたんだ…だから裏切られたって感じて、悔しくて、あんな酷いこと言っちゃった…」


「…そんな風に思ってること知らなかった…もう紗英は私のこと嫌いになっちゃったかなって…なんで分かってくれないのって、少しだけ思った…ほんとに最低だ、私…っ」


「うん…ほんと最低だよ、最低最悪だよ…っ。でも、好きな気持ちを抑えられないこと、紗英もよく分かるの。だから仕方ないって…分かるんだけど…っ」


気づくと二人とも泣いていた。窓から見える枯れた桜の木は、二人のことをそっと見守っているように思えた。


「…私もう、紗英のこと応援しない。」


「紗英も由梨のこと、絶対応援しない。」


二人はずっと泣いていた。お互いの両手を握りしめて、笑顔でぐちゃぐちゃに泣いていた。


「おっ、いたー!めっちゃ探したんだけど。え、てか…二人ともどうしたの?」


「歩美だあー!紗英ね、由梨のこと大っ嫌い!」


「私も紗英のこと大っ嫌いーー!」


そう言うと私たちは目を合わせて笑った。
歩美はそんな二人を見て「二人とも訳分かんなくて大っ嫌いだわ。」そう言って、いつもみたいに三人で、心の底から笑った。