「峰岸ありささん」

 帰りの新幹線の座席で名刺を眺める。展示会で出会ったあの美しい女神様からいただいたものだ。隣では瑛主くんがシートにもたれて目を閉じている。行きのときとは逆に、私が通路側だ。

「私が今まで会ったうちで美人ナンバーワンは亀田さんだったんだけど、塗り替えられたよ。亀田さんが職場のマドンナなら、峰岸さんはスーパーモデルかハリウッドスターってところだね。もう少しでサインもらっちゃうところだったわー」

 ふっ、と瑛主くんの笑う気配があった。私も笑った。あの峰岸さんとかいう女神様に会ってから、瑛主くんの態度は明らかにおかしかった。

「よかった、やっと笑ってくれた。ずっと顔が強ばっているから、お腹痛いのかと思っちゃったじゃない」
「なわけないだろ」

 瑛主くんはなおも笑いつづける。峰岸さんは瑛主くんとは名刺交換をしなかった。勤め先は変わっていないのかと尋ねていたし、お互いの連絡先を知っているようだった。

「ここ、ビューティーアドバイザーと書いてあるけど、フリーの人?」

「名刺、そうなってるの? まえの仕事を辞めてからは知らない。そういやテレビにも出てるみたいだった」


 テレビ、と私は興奮した。手のなかの名刺をしげしげと見る。スマートフォンを取り出し、印字されているQRコードを読みとると、個人ブログに繋がった。毎日更新されていて読者数も多い。ビューティーアドバイザーを名乗るだけあって、美や健康、ファッションや最近行ったカフェなど、情報が多方面にわたって綴られている。