「よかった」
「は? なにがっ」
瑛主くんがこのタイミングで意味不明発言を繰り出したものだから、むっとする。ベッドの別の場所に座り直した瑛主くんからは、さっきまでの獰猛さをはらんだ情熱は感じられなくなっていた。ふっと笑って私を振り返っている。
「姫里にも女子っぽいところがあってよかった。これだけ迫っても危機感ないなら、もう押し倒すしかないだろ。それはまずいだろ。そんなのが許されるのはイケメンだけ」
もう襲う気はなさそう、とわかれば私の頭も少しはまわりはじめる。
「……瑛主くんも許される部類と思うけど」
「姫里、俺のことそんなふうに思ってたの?」
瑛主くんは驚いたとでもいうように目を瞬いた。
「配属されて早々に部下に手を出すのはイケメンのすることじゃないよ。仕事覚えろって話。だめだよ、そんなのに引っかかっちゃ」
なにも言い返せない。
じゃあ、私にどうしろと? その、早々に配属された上司にうっかり恋心抱いちゃった部下はどうしたらいい?
この流れでは言えるはずもなく。
「もう、誰かさんにじゃれつかれたせいでアイス落としちゃったよ」
「また買ってあげるから」
抜かりなくポイントメイクだけ施してきたお部屋訪問だったけれど、上司と部下の垣根を保ったまま終わった。明日の朝食の時間を確認して。


