私は思いきり背を向けた。手で顔をぱたぱたあおぎながら落ち着こうとした。瞬きを繰り返して空を見あげる。会場に静かに流されているクラシック音楽が急に耳に飛び込んできた。いつからかかっていたのかわからないくらい、意識は現実から遠くにあった。夢見心地で足元がふわふわする。

 でもこの心臓のうるささは紛れもない現実だった。触れられなかった唇にそっと指をあてる。心はすっかりかき乱されている。


「あーあ」

 そばに誰もいないのをいいことに声に出してしまった。なんだろうこのしてやられた感。悔しい。認めたくない。認めたくないけど、これは認めるしかなさそうだ。私は……瑛主くんが好きだ。