エースとprincess

「電源が入らないんだよ、ほら」

「それ、その作業、持ちだすまえにしてくださいよ」

「だな。……あっ、ちょっと待って」

 壊れた端末の主電源を押してみせる瑛主くんに代替え品を渡し、社にUターンしようとしたところを引き留められる。
「今日、ブライダルフェアをやっているんだ。予約者の来場時間前だし、予約も空きがあるらしいから見ていけば」

 私は嘆息した。
「そういうことを、妙齢の、独身で今のところその予定も立っていない女性にさらっと言えちゃうんだもんな」


 なにか言った? と振りかえる瑛主くんは私の数歩先を行き、既に係の人に見学許可を取っていた。瑛主くんのほうも相手の乗っている新幹線が遅延しているそうで、約束の時間までまだ暇があるとのこと。



 つまらないことを気にするほうが馬鹿みたいだ。季節の花々でコーディネートされた模擬会場は晴天にも恵まれ、明るく爽やかな雰囲気に包まれている。端のほうで遠巻きに眺めるだけでも華やかな気配を楽しめた。風と花の香りが通り抜け、口の端が自然にあがる。白いバラに私の好きな黄色のミニバラがアクセントとなって混ざっていて、かわいらしくも清楚で品があった。香りも心地よかった。

 今日の私は光沢のある無地の青いワンピースにジャケットを合わせていて、いいところのお嬢様風ファッションだった。時間が許すならば、仕事中でなければ、臆することなく椅子でも用意してもらって一日中ここにいられそうだった。
 見るのが嫌なわけ、ない。好きだからこの仕事を選んだ。花で誰かの晴れの日を彩りたい。少しでも関わっていたい。