まえから思っていたんだけど、と私の目を見ながらあきちゃんはしみじみと言った。
「殿方のお宅に何度も泊まっておきながら手を出されずに無事でいられるなんて、葉月ちゃんてサバイバル能力高いよね」
「人はそれを色気がないと言うよ」
社内で私を葉月ちゃんと呼ぶのはあきちゃんだけだ。年は私のほうが上だけど、対等に気後れなくつきあってくれる一番の友人。ただし、あきちゃんは独特な着眼点を持っているから、客観的意見がほしいときには私は発言をいちいち真に受けないようにしている。
職場でのランチではとてもこんな会話はできないから、終業後に駅の近くのパスタ専門店で落ち合った。あきちゃんに求められていた合コンの詳細報告を果たせて、私もようやく肩の荷がおりたところだ。
あるいは、とあきちゃんは堅い口調でしゃべりつつ、小エビとベーコンのクリームパスタをフォークに小さく巻きつけている。
「漫画家くんにしても、主任さんにしても、葉月ちゃんが変な男に引っかからないように守ってくれているともとれるね」
「互いの認識にズレはあるけどね」
私は軽く息をつき、最近のふたりの言動を振り返る。
ナオのことはあきちゃんにもずっとまえから話してあった。面識はない。学生時代以外の知り合いでナオに会わせたことがあるのは瑛主くんだけだ。
「ナオは瑛主くんのことをできる男と認めていて、でもだからってどうということもなくて。むしろ私が特定の相手のところに片づいてしまえって思っているっぽい。逆に瑛主くんはナオを意識しまくっていて、合コンのナンパ野郎以上に警戒している感じ。私がなにも言わなくても勝手にナオの気配を探ってる」
「主任さんに言ってあげたら? 漫画家くんとは恋仲になるつもりはない、って」
「それって瑛主くんとはなるかもしれない、って言っているみたいじゃない?」
「絶対嫌な相手なら注意がいるけど、主任さんはまともそうだし、いいんじゃない? 葉月ちゃんのことを守ってくれているんだから、そのくらいのリップサービスしたってバチ当たんないよ。あと、これは私感なんだけど、主任さんが葉月ちゃんのことで陰ながらいつも要らぬ心配をして神経すり減らしているかと思うと、不憫で」


