エースとprincess

 リビングに敷いた布団を引きずって移動させながら、私は殊更明るい声を出す。

「断られるかと思った。黙り込むんだもん」

 瑛主くんは同じ部屋で眠ることをオーケーしてくれた。瑛主くんのベッドの脇に布団を持ってきて眠る形だ。明かりは全部消さないと眠れないというので、そこは譲った。

「だいじょうぶ!! 襲わないって誓う!!」

「その心配は一切してない」

 暗くても瑛主くんの苦笑いは気配でわかった。

「なんですと!?」

 あーあ、と投げやりで不機嫌そのものの声が響き、私は反対にうぐっと息を飲み込む。

「瑛主くんはさ、今日のバッティング対決のお兄ちゃんでさえ懐柔しちゃったんでしょ? そういう人になら、話す価値ありだなと思って」

 寒くもないのに、むしろ暑いくらいなのに、布団に仰向けの体勢でタオルケットを鼻まで引きあげる。
 この人は、私のこともすくいあげてくれるだろうか。それとも……。

「今から私の話をするから、聞いて……ください」

 仕事帰りに誘われたあの焼鳥屋で済ませればよかった話を今更しようとしているなんて要領が悪いかもしれないけれど、それは違う。あのときは瑛主くんがサワダ(仮)さんのような扱いにくいやっかいな人間に面と向かっていくタイプとは知らなかったから。
 今の私はあのときより瑛主くんを信用しているし、もっともっと踏み込んで、信じてみたかった。


「まえにも話したよね。私が営業やってたころのこと。亀田さんに負けまいと張り切りすぎてたって話。私、本当にのめり込み気質で。新郎新婦と盛り上がっちゃってね……結果、トラブっちゃって。今ならあり得ないってわかるんだけど、そのときは自分が正しい、なんで私が謝らなきゃいけないんだって腑に落ちなくて。悶々としてた時期があったの」

 私の知らないところで瑛主くんの耳に入れてほしくなかった。だから今打ち明けようとしている……のだけれど。
 核心に触れるのは今でも怖い。怖くて別のことを考えたくなる。実際、ほら今だって、何年前のことだろうと逃避をはじめかけていた。

「姫里、なにしたの」

 私じゃない声にシンプルに問われて現実に引き戻され、背中を押されて、それまで言いよどんでいたのが嘘のようにすっと告白が出た。

「ウェディングプランナーをひとり、クビに追い込んでしまった」