言っておくけどリンゴゼリーにつられたわけじゃない。
ドアの開く音、靴を脱ぐ気配があって、ただいまの声がした。瑛主くんが帰ってきたみたいだ。お帰りなさいと言うと、リビングに姿を見せた瑛主くんは、ん、となにやらほんわかした笑顔を向けてくる。
「ちゃんといるね」
「鍵を渡しちゃってさ、私がここにいないとそっちが困るじゃない。家、入れなくなるとこじゃない」
私が部屋のドアを施錠せずにいたとしても、下のエントランスのドアが自動でロックされているから、結局鍵なしでは部屋はおろかマンションに立ち入ることができない。オートロックの説明をしたある日の瑛主くんが脳裏をよぎった。あれはあれで必要な説明だったのだと今ならわかる。
「鍵ならポストのなかに予備を一本貼りつけてあるんだ。それ使えば入れる」
「って、それ私に言っちゃっていいの?」
「なにか問題でも?」
聞き返されて返事に窮していると、瑛主くんははあと大きくため息をついて私のそばに崩れるように腰を降ろした。
「風呂入った?」
「あっ、うん。お借りしました」
お風呂に入ったりあるものを使ったり好きにしていいとメッセージをもらっていたので、遠慮なくシャワーを借り、着替えのティーシャツと短パンも借り、冷凍庫のアイスまで頂戴した。旅館に泊まるようなものだと思えば照れも恥じらいも和らぐ。
と、いきなり瑛主くんが鼻をくんくんさせた。
「いい匂いがする」
「アイスかな。フローズンピーチメルバ」
「そうじゃなくて……俺の言いたいこと、わからない?」
瑛主くんは部屋に入ってきたときと同じはにかんだような笑顔になった。
「帰ってきたときに部屋にいてくれるの、すごくいい」
途端に私の顔に朱が差すのを感じた。どういうつもりでそんなこと……。
確かめるまもなく、風呂行ってくる、と瑛主くんは宣言して脱衣所に行ってしまった。


