エースとprincess

「どーいうこと!?」
「お持ち帰り宣言きた!!」
「あれ自分の部屋の鍵だよね」
「あっちが本命?」
「先に帰れとか、なんだあ? すでにデキてたのかあ?」

 違うよ、と言いたかったけど、すぐ横にはサワダ(仮)さんもいる。ここはひとつ、誤解されといたほうが彼も手を引いてくれる……?
 どよめきの集団のなかにはあきちゃんの姿もあった。私と目が合うと不敵に笑い、そこからスマホでメッセージを送ってきた。詳細kwsk……詳細、くわしく? あとで教えろ、と?


 そうこうしているうちに瑛主くんがこちらに来て、私の手からジャケットを抜き取り、鞄のうえに放った。

「この鍵……えっと。帰ってて、というのは」

「鍵は俺の家の。そこに帰れって意味」

 まだサワダ(仮)さんがそばにいるので慎重に言葉を選ばなくてはならない。
 とはいえいろいろと変だった。私たちふたり、そんな設定は背負ってない。そんな、鍵を預かって行き来するような仲じゃない。
 でもサワダ(仮)さんの耳もあるから、この場でそこまでしゃべることはできない。
 もたもたしていると、瑛主くんにいらついたように睨まれた。

「こんな日はどうせまっすぐ帰らないだろ」
「あ。はい」

 決めてたわけじゃないけど、ほろ酔いでわいわい騒いだあとは寄り道したくなる。
 はい、と認めたのが意外だったのか、瑛主くんの険のある目つきがいくぶん和らいだ。そのまま一歩二歩、近づく。なにを言うつもりだろう。
 そのときようやく気がついた。そういえば、瑛主くんが賭の勝利者だった。宣言通り私の時間をもらう——?

 思わず一歩、二歩と距離をとる。
 や、まさか、そんな。私をほしがるとか、そんな、そんな。
 椅子につかえてそれ以上さがれなくなったところで止まると、瑛主くんも足を止めた。
 それからかがみ込んできて、緊張する私の耳元にサワダ(仮)さんが聞き取れないくらいの小声でなにを言うかと思えば、

「部屋の冷蔵庫にあるすりおろしリンゴゼリー、食っていいから」