「わが営業四課の歓迎会ではあれこれ下世話で赤裸々な質問を浴びせるのが通例となっています。なかには答えづらいものもあるかと思いますが、そこはあくまでもテンプレート。私が考えたものじゃないので、そこんとこ誤解しないでくださいね!?」

「前置きが怖いな」

 言いながらも谷口主任はどこか楽しそうだ。質問が深まるにつれ、余裕の笑みさえ浮かべて、求められた自分のスペックを羅列していく。某四大卒で今年で入社十年目の三十一歳。血液型はO型、星座は射手座。家族構成は両親と妹。実家は遠方にあってひとり暮らし。趣味は引越しとDIYと草野球。好きな食べ物は豚骨ラーメン、おにぎりはこんぶ派でコーヒーはブラック。嫌いな食べ物はパクチーとザーサイ。キウイフルーツはアレルギーがあって食べるとかゆくなる。座右の銘は『損して得取れ』。好きな女優は−−、よく聴く音楽は−−。

「——って誰得なのこの情報」

 ぼそっと谷口主任が私にだけ聞こえる声でこぼす。同感、と思いながらも私はスルーして別の言葉を紡ぐ社畜だ。

「彼女はいますか?」

 この質問だけは返事まで間があった。


「……います」