エースとprincess


「嘘じゃない。方便」

「あっそう。いないんだ」

 どういう言いかたをしたところで彼女がいない事実は変わらないのに。

「大変だね。男の人には男の人にしかわからない妙なプライドがあるんだね」

 小馬鹿にしたような物言いが気に障ったのか、瑛主くんは私を見据えたまま動かない。私のほうが先に目を逸らした。斜め下の床付近に目を向けていたら、顔の横に右手が伸びてきた。

「言いたいことあるなら言ったら? 怖くなんてないんだから」

「だったら俺の目を見ろよ」

 怖くないなんて嘘。背後は壁で、瑛主くんが数十センチの目のまえにいて、肘のあたりからそのまま壁に手をついている。そのうえ、さっきから顔を凝視されている気配が。
 ぶつかりそうな距離でそういうことをされると、顔に熱が集まってくる。店の喧噪がどこか遠い。それ以上に鼓動が激しくて。心臓の音とかもう、これ相手にバレているレベルじゃないかと。


「逃げないの?」

「瑛主くんでなかったらぶっとばしてる」

 直後、小さく笑われた。指先を唇に当て、小刻みに肩を揺らしながら。それを合図に、私は瑛主くんのそばから抜け出した。笑みの残る目がこちらに向けられていた。私は束の間ながらぼうっとなっていたらしい。

「それならいいけど、あんまり隙見せるなよ。簡単に迫ってくるヤツは、他でもそれやってるからさ。……聞いてる?」

「聞いてる。呼んでいるみたいだから、戻るね」

 瑛主くんの発言で、誰のための合コンなのかよくわからなくなっていた。それでも、飲み食いしながら今を楽しめればいいと思っていた私は楽天家なのかもしれない。