「だったらなんなの」
もうすぐ終業時刻で今日は週末で、そうなると当然疲労も溜まっている。どうでもいい用件に対しては、返事がつっけんどんになる。
「いいんじゃないか? 完璧って感じの人ではないよな、あの人」
瑛主くんは控えめな表現をした。
郡司さんは仕事面では同年代の人たちに遅れをとる形で課長になった人で、私生活では離婚と再婚の経験があった。郡司さんを悪く言う人はいないけれど、だからといって賞賛する人もまたいなかった。目立つタイプではなかった。人を押しやってまで手柄を打ち立てる人でもなかった。
ここが好き、こういうところがいいと思う――そんなふうに言おうものなら、それだけが魅力として伝わってしまう気がした。だからといって言葉を尽くせばいいというものでもないように思えた。
「あの人の醸し出す雰囲気、いいなあと思うよ」
瑛主くんは彼なりの目線をもって勝手な思いを述べ、くすっと笑った。
「そういやこのまえのマンションのあの人、姫川の知り合いのなんだっけ、ナオさん? あの人にも通じるものがあるかな」
「はあ? どこが」
急にナオの名前を出されて素直に驚いた。瑛主くんは、そうだなあと言って楽しそうにシュレッターをかけつづけている。
「大事なものを大事にできるところ、かな」
終業のチャイムが鳴って、そういえば今日だったよね、と思い出したように瑛主くんが顔をあげた。午後七時半に隣駅近くの居酒屋に集合することになっている。亀田すみれさん主催による例の合コンだ。