「やだー郡司さん、もっと言ってやってください。あと、その左手の手首に近いところ、トナーの汚れじゃないですか?」

 なんで拭いても拭いても機械のあちこちが汚れるんだろうと思ってたんだ、それでかあ、と郡司さんは手を洗いに行った。


 私は瑛主くんから返された書類に課長の印をもらうと、別室のコピー機を借りにいった。複写したほうをファイルに綴じる。原本は封筒に入れて郵送用の書類ケースへ置く。

「これも見たから」
「あっ、はい」

 席に着いたところで瑛主くんから書類を返され、少し迷った。これも複写を残して原本発送なんだけど、コピー機はまだ紙詰まりから復旧していない様子。とりあえず机のまえの一時保管用ファイルケースに立てておいて、コピーが直ったら処理でいいか。
 なんて悠長に構えていたら、郡司さんに呼ばれて私までコピー機と格闘するはめになってしまった。

「助かったよ。俺、機械弱いからさー」
「電源落として、しばらく置いてまた入れるの、やりました?」
「やったよ。何回か。だけどまだ紙が詰まってるって言ってるんだよ、こいつ」
「んー。これはリース会社に電話かな。私、やっときますから戻っていいですよ」

 とはいえもうすぐ終業時刻だから、整備は週明けの朝一番にお願いする旨、郡司さんから了解を取っておく。


「なんか、わかったかも」

 私の背後で瑛主くんが立ち止まった。紙の束を数枚ずつシュレッターにかけている。

「姫里の憧れてる人って、郡司さん?」

 郡司さんは自分の席に戻っている。背後をうかがうと、瑛主くんは片方の眉をあげた。

「当たりだな」