亀田すみれから合コンに誘われたのは翌週のことだった。取引先の電子文書システム改修により事務処理が変更されるということで、その合同説明会で再会してしまったのだった。
 同じようなスーツのなかにいて、亀田さんだけが麗しく浮いていた。

「折り入って相談があるの。ごはんでもどう?」

「俺が約束していたんだけど、急なアポ入っちゃって。今からそっちに行かなきゃなんだ。フォロー頼む」

 瑛主くんにそう言われたら仕事になる。断れなかった。私とごはん食べたってその相談事は解決しないでしょう、と思わないでもないけれど、表面上は喜んで亀田さんについていく。イタリアンカフェで一杯だけグラスワインを飲みながら食事をした。


「で、相談というのは?」

「さっきまで一緒にいた谷口くんのこと。姫里さんに聞けてちょうどよかったかもしれない。正面からいってもたぶん拒否されそうだものね」

 谷口くんに特定の彼女がいないか探ってほしいんだ、と両手を顔のまえで合わせてお願いのポーズつきで言われた。かわいい人はなにをやってもかわいい。


「調査なら探偵にでも頼んだらどうですか」
「彼のこと、いいなって思っているの」

 私のボケをものともせず、亀田さんは自分の話をする。

「でね、仕事上のつきあいもあるから慎重に事を進めたくて」

 どうかなあ、と口では言いながら、亀田さんは私が協力するだろうと決めてかかっている。週末に合コンをするのだそうで、私に参加してほしいのだそうで、私が参加するなら瑛主くんも呼べば来るだろうと……。

「呼べばっていうか、もう声はかけてあるの」

 にこにこしている亀田さん。まるで『今週末、私の誕生パーティーするの』とでも言っているようなご機嫌な顔だ。亀田さんを中心に動いていくであろう決定事項。憂いのかけらはひとつも見あたらない。

 そもそも私、なんでここにいるんだっけ? 確か相談をされているんだよね? なのに自分の置かれている状況を見失うってどういうこと?
 営業力? これ、亀田すみれの営業力?