エースとprincess


「彼氏にしたい、とは思ってない。そう考えると、特に好きとは思っていなくて、惚れてもいないってことになるかな」


 ナオはなにも言わなかった。私はこの沈黙が嫌で、そもそもこの話を掘り下げる価値があるのかと問いかける意味も込めて補足した。

「あのさ、瑛主くんは職場の飲み会の席で彼女いるって公言してるんだよ」

「じゃあ聞くけど、お前なんであのとき俺んちにあの人連れてきた」

「質問はひとつじゃなかったの?」

「揚げ足取りはいい。答えろよ。お前、相当ひどいことやらかしてるかもしれねえんだぞ」
 

 今度は私が黙る番だった。ナオの指摘がわからない。ひどいこと、ってなに。

「今日の俺がオフだったことに心から感謝するんだな」
とナオは偉そうに前置きをして話しだした。


「あっちの目線で物事を考えてみろよ。職務内容の違いはあったとはいえ、姫は同じ会社で同じ年数働いてきた相手だ。今は部下で、ふたりきりで食事に行って奢ってやろうくらいの情は持っている。盛り上がって、女のほうが上機嫌で『相談に乗ってあげる』だの『いい場所に行こう』だの言い出した。大人の展開、期待しないほうがおかしくね?」

「待って、私」

 そんなつもりじゃなかった、とは言わせてもらえなかった。ナオの表情に、発言に、徐々に侮蔑が混ざっていく。

「連れて行かれたのはマンション。なかから薄汚れた男が出てきて、一気に期待は消失。むしろ死角から横っ面ぶん殴られたくらいの衝撃。姫が平然と話している相手の男は誰なのか。まさかの恋人なのか。だったら姫を恋人んちに送ったってことになる——」