「それは失礼しました。とんだご迷惑をおかけしたようで」
ナオが素手で額の汗を拭いながら、浅く頭を下げた。着ているボルドーのティーシャツは首がよれているだけでなく、ベランダで長時間干しすぎたために上のほうだけ激しく色あせをさせてしまっている。
「いや。迷惑とは思ってないんで」
肩に置かれた手にぐっと力が込められる。これでは肩を抱かれているも同然だ。どういうつもりか探ろうと振り返ると、そこにいた瑛主くんは私などまるで気にとめず、ナオだけを見ていた。
「まともに話せないようなので、今日は俺が送っていきます」
言われるがまま、瑛主くんと駅のタクシー乗り場まで向かう。
「今の人、ナオっていうんだけど」
「うん」
「ナオの格好を見て、勝った、とか思った?」
「別に。なにも」
瑛主くんは営業マンのわりには多弁なほうではないのだけれど、ナオのマンションに立ち寄ってからこっち、急速に口数を減らしている。
「嘘だね。その言いかた、勝ったとは思わなかったかもしれないけど、なにか思うところはあったっぽい。そうでしょ?」
露骨にため息をつく瑛主くん。
「あのマンションさ、最初、姫里の家なのかと思ったんだよ。でも姫里は実家からの通勤って言ってたから、立地や築年数的に少しイメージと違うかな、って引っかかって。そしたらあの人が出てきて、会話の感じからして一緒に住んでる家族ではなさそうだし……どういう人? 姫里の兄弟かなにか?」


