私はおにぎりを頬張ったまま首を横に振る。ううん、今はおにぎりのことだけを考えたい。鮭もふっくらしていておいしい。ランチで買ってるコンビニのとは違うなあ。
おにぎりを平らげるまで、沈黙が続いた。
「憧れた人は、いる」
いつもの強い目を向けられていた私は耐えきれなくなって、やむなく打ち明けた。賑やかな店内の話し声に紛れてしまえばいいと思った。
「えっ、今、なんて?」
ほんとに聞こえないとか、マジ勘弁してほしかった……。
「いるって言ったの! こっちが一方的に憧れてた人っ! 別にどうこうしたいとか、そんなんじゃなく、ただの憧れで」
からかわれるのはまっぴらだった。瑛主くんの顔をまともに見られなかった。でもなにか言ってほしい。そうっと瑛主くんの口元を窺うと、へえ、という形に動いたような気がした。
「好きになることくらい、あるよな」
それきり瑛主くんは黙ってしまった。顔に表情の出にくい人で、職場でも一部の人からは怒っているのかと相変わらず恐れられているくらいで、なのになぜかそのときの私には寂しそうに見えた。彼女とうまくいっていないのかな。
「私、聞き役くらいならなれるから。もし話したいなら言っていいからね!」
ドンマイと肩を叩いたら、すっげえチカラって笑われた。


