それからほとんど間を置かずに来客を告げるチャイムが鳴った。


「どうしよう、誰か来たみたい」

 浴室のドアをノックして声をかけると、扉を細く開けて髪を濡らした瑛主くんが怪訝な顔をのぞかせた。
 こんなときなのに、私は色っぽいなと思ってしまった。彼氏になった途端、見えかたが変わってくるから不思議だ。

「インターフォン見てきて。画面に映ってるから」

 言われたとおり備え付けのインターフォンの液晶画面を確かめ、瑛主くんのところへとって返す。

「山田さんが来てる! なんなの、あの人。まだ六時過ぎだよ。約束もなくこんな朝から来るの?」

 ふたりっきりを邪魔されそうだから、つい非難するような口調になる。
 シャワーの音が止んだ。

「約束は、したかも」

「なんの約束」

 告白をして想いが通じたばかりなのに、って気持ちが強すぎて、瑛主くんに対しても問いただすような態度を取ってしまう。

「草野球。あのさ、そこにいられると着替えられないんだけど……それとも、見る?」

「見ないです!!」

 回れ右をして、とりあえずインターフォンを操作する。下のエントランスのオートロックを解除した。
 下の鍵を開けても山田さんにはまた部屋のまえで待ってもらうことになる。


「山田さん、さっき見たら食べきれないくらいたくさんのパンを抱えてましたけど。私が来ているって知っているんですか?」

「昨日のチケット、あいつに無理言って確保してもらったんだ。あいつの勤め先がスポンサーで何気に自慢していたから、そのくらいいいだろって。姫里と行くのは知ってたから、なにか察したのかもな」

 パジャマ姿だった私も洗濯済みの昨日の服を持って寝室にこもり、身支度を整えた。
 メイクを施しながら向こうにいる瑛主くんと姿を見ずに会話をする。
 一緒に住めばこんな場面も多くなるのかも、と思わないでもない。

「なにニヤケけてるんだ」

「なんでもないです」

 リビングで瑛主くんと合流して玄関へ向かう。


 鍋から直接スープを飲んでいた山田さん。チケット手配のお礼もあるし、パンに合わせて簡単なスープでも作ろう。バケットがあったからオニオングラタンスープもいいかもしれない。
 ドアが開けられるのを待ちながら、私は賑やかになりそうな朝食に思いを馳せた。



  — エースとprincess・了 —