最初のうちは瑛主くんも笑いを堪えていた。だけど、私が掛け声をかけて勢いをつけて立とうとしてうまくいっていないのを見て、いよいよ笑いが止まらなくなった。
 そうなるとこっちも腹立たしくなってきて、もうヤツの力は借りるまいと思い、ソファの肘掛けやテーブルにもたれて体勢を整えようとする。
 最後にはさすがに瑛主くんが助け起こしてくれた。行きついたのは寝室のベッドのうえだった。

「朝まで隣で寝てくれるか」

 このあとどうなるのか気がかりだっただけに、そう切り出してくれてほっとしたのは事実だ。頷き、ベッドの奥側にいる瑛主くんの横に恐る恐る入った。

「もっとこっちに寄って。落ちたくないなら」

「私、寝相いいし。瑛主くんさえ突き飛ばさなければ大丈夫」

「さっきみたいなかわいい一面見せてくれたら絶対落とさないし。ああ、でも、あんまり憎まれ口ばっかりだとついうっかりするかもしれないな」

「嘘つき」

 口ではそんなことを言うくせに、瑛主くんは私の首のうしろと膝の裏に手を入れてよっこいせと抱き上げ、より転落しにくい自分の側に移動させ、私を見おろしながら頭を撫でている。

「なんとでも言え」

 夢を見ているようだった。瑛主くんが優しい。愛おしい。こんなふうに誰かに甘やかされたことがあっただろうか。
 好きな人から向けられる温かな眼差しを間近で感じながら、知らず知らずのうちに眠りについた。



  *

 翌朝、目覚めたのはほとんど同時だった。小さな身じろぎで視界に入ってきた情報からどうしてここにいるのかを思いだし、瑛主くんの寝顔を拝んでやろうとしたら、その瞼が開いた。

「おはよう」
「おはよう、ございます」

 すかさず目の横にキスを落とされる。そうだった。昨夜、気持ちを伝えあったんだった。

「……一瞬、なんで姫里と寝てるんだっけ、ってびびった」

 夢心地なのは瑛主くんも同じで、うれしくなる。
 朝ご飯をどうするか、今日はどう過ごすかをベッドにいたまま相談して、瑛主くんはシャワーへ、私は瑛主くんが浴室に消えてから洗面所へ向かった。