エースとprincess


 水道水を流して、瑛主くんは泡のついた私の両手を洗った。無骨な指が私の指一本一本を丁寧に撫でまわす。隅々まで検分する執拗な動作に私の心臓が狂ったように騒いだ。
 手から洗剤泡が消え、シンク台に落ちているスポンジが拾われたときにはこれで終わりかとほっとしたのに、それをスポンジ置きに適当に放るなり瑛主くんの片手がまた私の手に戻ってきて触れまわるものだから、さすがに抗議の声をあげた。

「水遊びはこのくらいにしません?」

「奇遇だな。俺もそう思ったところ」

 洗った手を拭いてくれて、そのまま引いてソファまで導かれる。
 きれいに片づけられたテーブルに小さい包みが置かれているのが目についた。銀色に白のレース模様の入った手提げの紙袋。

「なにこれ」

「開けてみて」

 中身はピアスだった。黄緑色の石がついている。おそらく私の誕生石のペリドットだ。

「かわいい」
「普段の服装から考えるとこんな感じかなって」


「こんなのもらうと困る?」
と瑛主くんが私の顔を覗きこんでくる。女の人への贈り物が不慣れなのか少しだけ自信なさそうな顔つきが、逆にかわいくてくすぐったくなる。そんな顔をさせているのが私だと思ったら心が温かくなる。
 いつまでも不安げな顔を見ていたいけど、それよりも思いを伝えたいほうが勝っていて——。

「嬉しすぎる。ピアスもそうだけど、今日は最初から最後までずっと楽しかった。楽しませてくれようとしているのが伝わってきた。私ばっかり、たくさんいろんなものをもらった気がする。こんなにしてもらったら、瑛主くんが上司だってこと、忘れそうになる」

「忘れていいよ」

 瑛主くんが静かに言った。

「上司だということも、異動してそう時間が経っていないことも。俺が言ったそういうことを一切、忘れてくれていい」