マンションに着くと、私たちは順番にお風呂に入って汗を流した。私が髪を乾かしているあいだに瑛主くんがソファのところのテーブルにタルトとスパークリングワインを用意した。ガラス容器に入ったキャンドルと細いろうそくまで置いてあった。瑛主くんが手際よくそれらに火を灯す。ろうそくは丸いタルトに等間隔に並べて立てられていた。
「これは?」
「電気消すよ。座って」
質問には答えずに瑛主くんはそう言い、壁のスイッチを押して照明を落とした。キャンドルとろうそくの炎が周囲をオレンジ色に照らしている。
瑛主くんはテーブルのふたつのグラスにワインを注ぎ、片方を私のまえに滑らせた。そうしてソファに座り直す。
乾杯するのかと思ったら違った。瑛主くんは私に宛てて誕生日の歌を歌いだした。
新入社員時代の宴会の件があってから、私のなかでは瑛主くんは音痴と刷り込まれていたのに、この歌は全く違っていた。
力みのない自然な歌声が心地いい。そしてそれ以上に腹立たしい。
「姫里、誕生日おめでとう」
「……騙したね」
そのひとことで話が通じた。
「俺は別に歌が苦手だなんて言ってない。めんどくせえなって思っていただけ。そこへ姫里が近づいてきて一緒に歌うとか言い出して、ああこの子は俺に助け船を出してるつもりなんだなあと、突っぱねるのも変だから流れに任せただけ。確かに人前で歌うのはあまり好きじゃないけどな」


