「今週の土曜は一日あけといて」

「また出張ですか」

 瑛主くんのことだからそれもあり得る。そう思っての確認だった。

「それも悪くないけど、遊びの予定」

「あいにく先約がありまして」

 本当だった。あきちゃんと夏物バーゲンに行く約束をしていた。
 瑛主くんは動じなかった。驚く素振りさえ見せない。

「どういうつもりで誘っているかは昨夜伝えたはずだけど、それでも……だめか?」

 長机にそっと手が置かれ、視線が誘導される。見あげると私より長身の瑛主くんが心細げに瞳を揺らしていて、息を呑んだ。“デート”のフレーズが思い起こされる。
 デートだと意識したら私のほうがうろたえた。会っているときに言ってほしいと昨夜は思ったのに、いざ言われると照れくさくて走って逃げたくなる。


「本当にだめ?」

「あーもう、わかりましたよ。行きますから!」

 しつこく食いさがる瑛主くんを見ないようにして、これでいいでしょとばかりに返事をする。かわいげがないと自分でも思う。
 瑛主くんは笑いをこらえきれない様子だ。声が明るい。

「勇気を出してよかった。まえに誰かさんに叱咤激励されたからな。ちょうどこの部屋の近くで」 
「そうですか」
「初めてだな。こんな喧嘩腰にデートのオーケーもらったのは」
「でしょうね」

 その日の瑛主くんは終始表情が明るかった。職場のいろんな人にどうしたなにかいいことあったかと聞かれていて、席の近い私は浮かれているその理由に思い切り心当たりがあるだけに、瑛主くんがデートの件をばらすんじゃないかと気が気ではなかった。