エースとprincess


 部屋での作業もあるのだからと私が立ち去ろうとしたのを、瑛主くんはぐいと手を引いて留めた。軽くよろけたもののぶつかるほどでもなく、すぐに手は離れた。

「やっと終わった」

「うん」

 改めて確認するように瑛主くんが言うので、私も同調して静かに頷く。 

「今日で全部清算できた。これでやっと進める」

「そう」 

 山田さんから借りる不釣り合いなネクタイ姿もこれで見納めかと思ったら、そのつもりはなくても口元が緩んだ。なに笑ってるの、別に、なんてやりとりを経て沈黙が降りる。
 瑛主くんが口を開いた。

「ありがとうなんて言葉じゃたりないけど。姫里が協力してくれて、助かった。今の俺の一番近くにいる女が姫里だったから、あいつを刺激するんじゃないかと恐れていたんだ。だから最初は巻き込むまいとして黙っていた。解決に時間がかかるのもわかっていた。あいつを悪者にして排除しても、納得せずにまた来そうな気がして……だったら徹底的に根比べしてやろうと、峰岸氏と連絡を密にしながら帰国を待っていた」

 はい、とだけ私は答える。

「終わってよかった。姫里が俺のしていることに呆れて離れてくんじゃないかって心配してたけど、今のところまだいてくれてるし」

 よかった、と白い歯をのぞかせて笑う瑛主くんが、基本は強面のくせにそんな弱気に心配をしているところが妙にかわいく思えて、私の手が動きかけた。あと少しでぎゅっと抱きつくか、頭をよしよしと撫でるか、するところだった。よほどぎこちない動きだったのか、数センチあがったその手を元に戻すのを瑛主くんは見逃さなかった。


「今、なにしようとした」