「これ、芸能事務所? 聞いたことのない名前ね」
疑わしげに言いながら、峰岸さんは名刺を細部まで読んだり裏返したりしている。「こう見えて私だって以前、有名どころから声を掛けられたこと、あるんだけど」
「私が話を通したのは昨日今日といった最近の話です。声を掛けたきり音沙汰のない有名どころがどうしてもいいというならそれまでですが、こういう出会いって、ご縁やタイミングもあると思うんですよねー。次々に新しい才能が発掘されていく業界でしょうから、ある程度は売り込みも必要かと思いますし。もちろん、峰岸さんにその気があるのなら、という前提で話しているんですけど」
にこやかに微笑みながら一度は渡しかけた名刺に目を落とし、不要なら返してとばかりに手を差し出す。峰岸さんは私から逃れるように名刺を持った手を下げた。返すつもりはないらしい。となればもう一押しだ。
「ご縁やタイミングか。恋と似てますね!」
「……いかがわしい業界じゃないよね?」
じろりと刺すような目で睨まれる。乗せるつもりが逆に警戒されてしまった。
「どうして私にエロい業界のつてがあると思ったんです? ないでしょ、この平坦なボディーに! ニーズなんて!」
「うん。そうね」
キイイっと大袈裟なくらいこっちが自虐的に騒いでみせたら峰岸さん、あっさり納得した。わかっていたけど面倒くさいな、この人。
やれやれやっとご理解いただけたようだと胸をなで下ろす私を余所に、峰岸さんはなにか思いついたらしい。
「芸能界もいいけど、まずは目先のものよね」
私の脇をすり抜け、瑛主くんの部屋のまえまで行き、振り返った。
「ありがとう。あなたには感謝するわ。いいアイデアをくれて」
そう言われてもなにが峰岸さんのアンテナに触れたのか私には見当もつかない。止めようと腕を掴んだ。
「なに、考えているんですか?」


