「似合わないネクタイは、あれ、山田さんのを借りていたんですね」
「そういうこと。山田を伴ってスーツや着替えはいくつか持ち出せたんだけど、ネクタイを忘れてしまって」
「……待って。じゃあ峰岸さんって瑛主くんのマンションに泊まっているんですか?」
「うん。まあ」
「連日?」
「そう」
「家出ってこと? 旦那さんと喧嘩でもしたんでしょうか」
それにしては峰岸さん、会社の外で瑛主くんの出待ちをしているときにルンルンしているように見えたけれど。
「いや、そういうんじゃなさそうだ。出張のときに俺とたまたま再会して……興味が沸いたようなことを言ってた」
このときばかりは瑛主くんも言いにくそうだった。そんな瑛主くんにがしっと肩を組み、山田さんがにっと笑った。
「要は瑛主くん狙いってことさ」
種明かしをしてしまえば簡単なことだった。瑛主くんはつきまとう峰岸さんを全力で避けている。ただそれだけのこと。
峰岸さんのご主人はどうしているのかと尋ねると、海外出張中とのことだった。それもご主人の会社のほうに事を荒立てないよう配慮して聞いたため、最初はなかなか取り次いでもらえず、出張のことを知るだけでも数日かかったのだそうだ。さすが大手の社員。うちの若い社員と違って個人情報保護の教育が行き届いている。
「今は旦那さん……社長の第二秘書と連絡がついた。社長が帰国次第、こっちに出向いてもらうことになっている」
「大変だったんだぞー。僕も有給あまってたから同行してさあ」
「同行って……えっ、ふたりで行ったんですか? ご主人の会社まで?」
そうでもしないと話ができなかったから、と瑛主くんは言う。私は改めてふたりの風貌を眺めた。得体の知れない眼光鋭い男と顔立ちの派手目なイケメンで体格のいい男。揃って押しかけるというのは絵になる。そこの社員さんもさぞや度肝を抜かれたことだろう。
「そのツーショット、見たかったな」
「呑気でいいね」
瑛主くんは苦笑いをする。
会社の詳しい場所は知らないけれど、往復で半日はつぶれるくらい遠かったはず。当然、社長の自宅もその界隈だろうから……峰岸さんの住まいはここから相当離れていることになる。だから、夜に瑛主くんのマンションまで送り届けてもらっていた、って?


