「は? 僕だけど」
と、目をぱちぱち瞬かせているのはサワダさん(仮)。サワダ、サナダ、ヤマダ。うん、抑揚は似ている。
「サワダでもサナダでもなかったんだね。よろしく、山田さん」
「どんな耳してんだよ」
話が逸れた。で、とアイスティーを飲んで軌道修正する。乾杯でグラス一杯だけスパークリングワインにおつきあいしたあと、今日はアルコールは控えている。瑛主くんに至っては最初からウーロン茶だ。
「峰岸さんと夜に合流して、一緒に食事して?」
うん、と瑛主くんは言葉少なに言う。大人同士の食事なんだからお酒も飲んでいるかもしれない。そんな状態で食事のあとどうなったかは、できれば知りたくない。
会話の途絶えた空間に、山田さんがもしゃもしゃとレタスを咀嚼する音が大きく聞こえる。
「山田ー?」
「いや、いいんですよ。くつろいでいても。緊張感あおったってなにも出てきませんもんね」
「姫ちゃん、なーに遠慮してんの。気になってんでしょ? 聞いていいんだよ?『あの美女とヤったんですか?』って」
脱力する瑛主くんと苦笑いの私に、山田さんは容赦なく切り込んでくる。
「してないよ」
と、瑛主くんは断言した。
「ありさとは会社のまえで会って、なるべく早く山田とか他の友人なんかと合流して外で飯を食うようにしていたんだ。それから俺のマンションまで送り届けていた。俺は一緒に部屋にすら入っていない。誤解を招くことは極力避けたかった」
「それ! 一緒に入らなくて大正解」
山田さんが大きく頷く。
「『監禁されてた』なんて彼女に喚かれようものなら、こっちが悪いことしてるみたいになるじゃんか。まるっきり逆なのにさあ」


