「はあ……清良君に格好悪いところ見られたな」
ついカッとなって、言葉が乱れてしまった自分が恥ずかしくなった。
朝、『彩音さんの行動は分かりやすくて安心する』とは言われたけれど、さっきの感情の表現はあまりにも恥ずかしい。
いい大人が、昔のこと思い出してその時の感情を抑えられないでいるなんて格好悪いよね。
――――元カレなんて、知られたくなかったな。
窓ガラスにコツンとつけたおでこに、ひんやりとした冷気が伝わる。
その冷気がふわっと逃げていくような「手伝うよ」というあたたかい声とともに、私の隣にからぶきを持った清良君が並んだ。
「今日江渡館長と話しながら作った文章って、これから職員全員に渡るの?」
「うん、そうだね。共通理解のために渡すことになってるよ」
「それなら助かるよね。彩音さんは男の子たちと遊ぶ予定があるし、俺はピアノあるからさ。それでも空いている時間は出来るだけ美晴ちゃんの折り紙教室に顔を出しにいこうとは思ってるよ。気になるし」
美晴ちゃんのことを一生懸命考えてくれる清良君を横目に見ながら、何か満たされていくような、あたたかな感情が胸の中に生まれた。
「……清良君は、あったかいね」

