「何でそんなに驚いてるの?」
「いや、だって……意外で……あ、そっか。猫ふんじゃったとかそういう簡単なの弾けるってこと?」
「まあ、それも弾けるけど。俺が好きなのはもうちょっとしっとり系かな?いこうか、柚希ちゃん」
清良君は柚希ちゃんのちっちゃな手を握ると、ホールにあるアップライトピアノへ向かった。
しっとり系って?
しっとり系の曲で清良君でも弾けそうな曲ってなんだろう。
興味があった私は、二人の後を追った。
清良君は、「じゃあ聞いててね。俺の得意曲」と言ってピアノの椅子に座って、慣れたようにペダルがある位置に右足を合わせて、袖をまくった。
すっと小さく息をすったかと思うと、清良君の笑顔が優しく前に傾いて、それと一緒に優しいメロディーがホール全体に響き渡った。
「うわあ、清良先生上手!」
柚希ちゃんは、拍手をしながら聞いていて、その音を聞いていたホールで遊んでいた子どもたちも一斉に清良君の周りに集まった。

