「えっとね……」


清良君はそう言って、読んでいた小説をテーブルの上に置くと、お皿にあったバナナバフィンを半分食べて、考えるように視線を上にあげながらもぐもぐ口を動かしてそれを飲み込むと、「落ち着く……いや、心地良いって感じ?」と呟いた。


『心地良い』という言葉が、私がついさっき感じた感情と同じだったから、どきりと心臓が跳ねた。

心臓が思いがけずに大きく動いたもんだから、私は動揺して何も返せないまま、ぽかんと口を上げて清良君を見つめていた。



「一緒にいるのに、ぶつかり合わないっていうか、自然と時間が流れる感じ?干渉しすぎない感じで、居候させてもらってるのに、なんだか自分の家にいる感じなんだよね。彩音さんもそんな感じしない?」



首をちょっぴりだけかしげて笑う清良君を見ていたら、自然と首が縦に動いていた。



「ちょっとでっかいトイプードルだけどさ、もうちょいよろしくね」



バナナマフィンの残りをパクリと食べて立ち上がった清良君の背中を見つめながら、もうちょっいか……と、寂しく感じている自分がいた。