「この旅が終わったら、俺もサラリーマンだし。今から読んでおいてもいいかなって」
「ふうん?」
こんなに自由な感じな清良君なのに、将来はサラリーマンやるって決めていて、思ったよりも普通な感じなんだなと思った。
清良君は、「じゃあ、借りるね」と言って自分の部屋へ行くと、リュックを枕代わりにしてごろんと寝転がって、本を読み始めた。
くつろいで本を読んでいる清良君を横目で確認しながら、本に夢中になるかもしれないから昼食はつまんで食べられるものにしようと考えた私は、冷蔵庫からバナナと無塩バターを取り出して、バナナマフィンを作ることにした。
*
読みかけの小説をソファーにゆったりと座りながら読んでいると、ピーっと、焼き上がりを知らせるオーブンの声が聞こえた。
チェック柄のミトンをつけてオーブンの中を確認すると、ふんわりと膨らんだマフィンの香りが部屋の中に広がった。
「超いい匂いする……」
気づくと私の後ろには本を片手に持った清良君がいた。

