甲本さんから貸してもらって透明なビニール傘をさして、できるだけスニーカーに雪が入らないように、雪の真上から雪をつぶすようにしてゆっくり歩いた。

いつもは車通りが割とある町道は、なぜか今日はしんとしていた。

突然降った季節はずれの大雪だ。

スタッドレスタイヤの準備なんてしてなかったんだろうなと思いながら私は、白い息を遊ぶように吐きながら、雪のぎゅっぎゅっとなる音を、楽しみながら歩いていた。


その時、

ドゥルル……ドル……と、居心地の悪いテンポの悪い音が耳に入り顔を上げた。


顔を上げた先に見えたのは、雪が積もって轍(わだち)が出来始めた道路を、両足を道路につけながらバイクでよろよろと走っている合羽姿の人だった。


体の大きさとがっちりした肩を見る限り、男の人なのだろう。


体の割りに、郵便局の配達員が乗っているような小さいバイクが苦しそうな声を上げながら合羽男を懸命に運んでいた。