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バイクの外していたバッテリーを付けエンジンをつけると、バイクは何か月も休んでいたとは思えないくらい元気にエンジンを回し始めた。
エンジンのスタートを良くするためのチョークを元に戻すと、エンジンの大きな音は小さくなり、リズムよくトットットットとマフラーから排気ガスを吐き始めた。
清良君は、数か月住んだアパートを見上げて「これでお別れか」と呟いた。
「気を付けて帰ってね」
「うん。連絡するから」
バイクをスタンドで立てて私に正対した清良君は、「彩音さん、この数か月お世話になりました」とお礼を言った。
「こちらこそ。すごく楽しかったよ」
泣きそうになりながら振り絞った言葉は震えていて、そのことに気づいた清良君はすぐに抱きしめてくれた。
「俺この三年間いろんな別れ経験してきたけれど、ここまで別れたくないなって思ったのは彩音さんが初めてだよ。本当にありがとう……」
清良君はゆっくり体を離すとポケットから何かを取り出した。

