来客用のスリッパをゆっくりゆっくり拭きながら、ぽつりぽつりと零した話を千夏ちゃんは頷きながら黙って聞いてくれた。
「ただものじゃないとは思ってたけれど、まさか大蔵商事の息子さんだったなんて……」
「だよね。それ聞いてさ、約束は守らきゃいけないだろって思って、帰るべきだって言ったんだよね」
「帰って欲しくないのに?」
「……うん……」
「それはバカですね。なんで帰って欲しくないって言わなかったんですか?」
「それ言っちゃったら、清良君のお父さん困るだろうなって。約束だし」
「じゃあ、私も一緒に行くって言えば良かったじゃないですか」
千夏ちゃんはものすごいスピードでスリッパを一組にして、どんどん下駄箱に入れていく。
「ああ……」
「ああ……じゃないっすよ。単純なことじゃないですか!この仕事が良いのなら東京で同じ仕事探せばいいわけですし」
「でも7つも年上だよ?それに私……とくに取り柄も無い一般人だし」
「そういう考え今さら流行ります?一般庶民が国の王様と結婚出来る時代に。彩音先輩は考えが凝り固まりすぎですよ」

