なんて面倒くさい女なのだろうと思ったのだけれど、私のことを『知りたい』と言ってくれた清良君だからこそ、面倒くさい女になれるのだとそう思う。



「親父のことは嫌いじゃないよ。ただ、俺が大蔵商事の社長の息子だって分かれば、みんな『そういう目』でしか見てくれなくなるから。『大蔵社長の息子さん』ってさ。」



「だから『名前覚えてもらうって嬉しい』って言ってたんだね」



「そう。だからこそ俺のこと誰も知らない場所に行って、『大蔵清良』として自由に生きたかったんだ。自分で決めることって難しいんだなって、旅してみて痛感した」



清良君の緊張していた体がゆるりと緩むのを見計らって、私は隣に座った。



「会社を継ぐ前に三年間だけ自由にさせてくれってお願いしたんだ。それが来年の三月いっぱい……あと三か月くらいかな」



「4月になったら帰るってこと?」



「……うん、まあそういう約束」



「大蔵商事の本社ってどこだっけ?」



「東京」



「ふうん……遠くなるね」



「うん……」



被っていたブランケットを半分にたたみソファーの背もたれにかけた清良君は、言葉を続けた。