「彩音のお父さん、何か用事だったの?」



「ううん。私のお父さんじゃないよ」



私のその言葉を聞いた瞬間、清良君のゆらゆら揺れていた体がぴんと伸び、見開いた目が私に向けられた。



「俺の?」



静かに頷くと同時に、複雑な心境とは全く正反対の笑顔を作り清良君に向けた。

そして、「びっくりしたよ。清良君のお父さんって大蔵商事の社長さんだったんだね」と、笑顔の裏の心情を悟られないように早口で言葉を伝えた。



「うん。まあ、ね……」



清良君は私から視線を外し、気まずそうに俯いた。



「もしかして知られたくなかった?」



「うん、できれば。それが嫌で旅してるのもあるし」



「お父さんのこと嫌いなの?」



そんなナイーブなことまで聞いてしまって失礼ではないかとは思ったけれど、このいたたまれない距離を縮めない限り、これ以上の関係は望めないと思った。