そんな私の戸惑いを感じたのか、清良君のお父さんが低い落ち着いた声で、私に理解してもらおうという気遣いからか、ゆっくりと話し始めた。



『この番号は、清良がお世話になっているという勤め先の館長さんに聞きました。お礼を言いたくて。うちの息子があなたに助けられたたようで。ありがとうございました』



「いえ、そんな……こちらも助かっているんです。人手が足りなくて困っているところを、清良く……さんが快く引き受けて下さって」



『何にでも飛びつくような子ですから。通帳の残高があまりに少なすぎて心配で電話しましたら、一人暮らしのお嬢様の家にお世話になっているとバカなことを言いまして。叱っておきました。嫁入り前の娘さんに大変失礼なことをしました。申し訳ありません』



「娘って年でもないですし、全然気にしてないですよ」



『いえ、気にしてください。本当にバカなことを……あの、それに関わってなのですが高橋さんにお願いがあります』



「はい。お願い、というと……?」



『息子に帰るように伝えてもらえないでしょうか』



「え?帰るつもりだと思いますよ。この仕事は春までで、その後は帰ってサラリーマンするんだって……」



『それは最近聞いた話ですか?』



「初めて会った頃だったと思いますが……」



『そうですか』



電話の向こうで大きなため息をついたのが分かった。