「確かに今思えばそうだな。ピアノ教えられてるときは叱られたことなかったし」
「ということは、ピアノ弾いてる時以外は、よく叱られてたってこと?」
「当たり」
「やっぱり!清良君って色々なことに興味ありそうだもんね。子どもの時もやんちゃだったんだろうなって……」
面白おかしく清良君に返答したつもりだったのに、なぜか清良君の表情は曇っていた。
寂しそうな……そんな表情。
「あの……私何か失礼なこと言ったかな?」
「あ、ううん。そういうわけじゃないんだけど……ごめん、ちょっとトイレに行ってくる」
そう言って清良君は、その場から離れた。
清良君のこんな表情は、思い返せば時折あった。
でもささいな会話の中の表情だったから、どんな会話の時にその表情になったのかは思い出せない。
この距離を縮めるために、私がその表情の理由を聞いたら清良君は答えてくれるのだろうか?
清良君がいなくなってぽっかりと空いた向かいの席をじっと見つめる時間が過ぎて行けばいくほど、その不安感は強くなった。

