最悪だ…
最悪だ…

何度も同じ言葉を声にならない声で繰り返す。足取りが重い…


「佐穂~そんなに落ち込まないで~。」

そんな私を見かねたのか同期の愛理が心配半分同情半分といった感じで声をかけてきた。

「患者さんの自宅電話番号間違えることなんて、よくあることだよ~。」
いつも通りの間延びした声で何とか慰めてくれようとする気持ちは嬉しいけど…現実を言葉にされることって今の私にはかなりキビシイ。
いや、もっともミスを犯した私がわるいんだけどね…わかってるんだけどね…

「ただ急変の報告の電話っていうのがちょっと痛かったよね~死にかけてますって違う人に連絡するって、電話受けた方もびっくりだっ…」
「ストップ!」
その顔があまりにも悲壮感漂うものだったみたいで愛理は途端に(しまった)という表情になる。

私、平田佐穂は120床程度のさほど大きくない病院に勤務している新人ナース…とはもう呼んでもらえない(今思えばそう呼ばれてた時の気楽さが懐かしい…)看護師3年目。
いつも完璧とまでは言えないけど、それなりに仕事をこなしていたのに…。
何でカルテが違うことに気が付かなかったんだろ…同期の愛理との準夜勤だからって気を抜いてた訳じゃないのに…

「3年目だからって気が緩んでるんじゃないの?」
先輩ナースの嫌味が耳元で言われてるかのように再び頭に響いた。


「あ、でもさ、その、患者さんも持ち直した訳だしね、結果オーライだよね。」
いや、全然オーライじゃないでしょ、次出勤したら師長になんて言われるか。でも
「愛理、ありがとうね。」形だけは礼を言う。愛理の慰めは本心からなのは分かってるから。

「じゃあさ、ちょっと気付けにラーメンでも行く?」
「いや、止めとくよ~深夜のラーメンは危険だわ、体重ちょっとやばくて。」
半分は断る言い訳だったけど、腕時計に視線を落とすと既に3時を過ぎていた。
「だね~」

スタッフ専用の出入り口の扉を開けると冷たい空気が一気に暖かい室内に入り込んでくる。
「寒い~!佐穂はタクシー?」
「うん、大通りまで出たら拾えるよね?」
「多分ね~。こんな時だけは寮で良かったって思うよ~めちゃ古いけどね~」
「遅くなってごめんね。」
「いいよ、いいよ。」
先輩にミスをこってり絞られ、かなり勤務時間がオーバーしたにも関わらず愛理は屈託なく笑う。私のとばっちりなのに…ありがとうね愛理…