* * *


 紅茶専門店『Yellow Moon』――。

 僕が働いている店だ。ドアを引き開けると、ベルがからんころんと音を立てた。

「ただいま……」

 ゆっくりとドアを閉めると、

「ガキじゃあるましい、いつまで買い出し行ってんのよ!」
「痛い痛い痛い!!」

 僕を出迎えてくれたのは、早口な怒号と強烈なチョークスリーパー。回された腕がぎちぎちと首に食い込み、気管が締まる。

 いきが、できない。

「ね、ねえさん、ほんとにいたいよ! しんじゃう!!」
「あら、ごめんなさい」

 悪びれる様子もなくそう言うと、彼女――僕の姉・後月玲夏(しつきれいか)は僕を解放してくれた。

 きゅうきゅうと悲鳴をあげる気管。半ば呼吸困難になりながら、肩で大きく息をして目一杯肺に空気を送った。